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大分地方裁判所 平成4年(ワ)265号 判決

原告

岩尾富志美

ほか二名

被告

福田信彦

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告岩尾富志美に対し金一六四万六五九三円及びうち金一四四万六五九三円に対する平成四年一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岩尾耕治に対し金二四八万四五九三円及びうち金二一八万四五九三円に対する平成四年一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  原告岩尾富志美及び原告岩尾耕治のその余の請求並びに原告岩尾絵美の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告岩尾富志美及び原告岩尾耕治と被告らとの間においては、同原告らに生じた費用の五分の四と被告らに生じた費用の三分の二を原告岩尾富志美及び原告岩尾耕治の負担とし、その余は全部被告らの負担とし、原告岩尾絵美と被告らとの間においては、全部原告岩尾絵美の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の要旨

1  被告らは、連帯して、原告岩尾富志美に対し、金二一三九万三七九八円及びうち金一九八九万三七九八円に対する平成四年一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岩尾耕治に対し、金二二八六万九七九八円及びうち金二一三六万九七九八円に対する平成四年一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岩尾絵美に対し、金一一〇万円及びうち金一〇〇万円に対する平成四年一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告福田信彦)

1 原告らの被告福田信彦に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告明治乳業株式会社)

1 原告らの被告明治乳業株式会社に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成四年一月六日

午前一時三四分ころ

(二) 場所 福岡市城南区七隈七丁目一八番一五号先道路上

(三) 加害車両 被告福田信彦(以下、単に「被告福田」という)運転の普通貨物自動車(福岡四五み七〇三〇)

(四) 態様 亡岩尾謙介(以下、単に「謙介」という)がバイクを運転して進行中、幅員の狭くなつている本件事故現場付近の電柱に衝突して転倒し、道路左側車線の中央付近に投げ出され、倒れているところに、同方向に進行してきた加害車両に衝突され、約三〇メートル突き飛ばされ死亡したものである。

2  責任原因

(一) 被告福田は、飲酒運転のうえ、前方注視を怠り、漫然と進行した過失により本件事故を惹起させたものであり、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

(二) 被告明治乳業株式会社(以下、単に「被告会社」という)は、加害車両の保有者であり、同車両を自己のために運行の用に供していたものであり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負う。

3  謙介の受傷内容と死亡経過

謙介は、本件事故により肺挫滅創、左大腿骨骨折、右下腿骨開放性骨折等全身打撲傷の傷害を負い、数分後に死亡した。

4  損害

(一) 謙介の損害 金六五七八万七五九六円

(1) 慰謝料 金一五〇〇万円

謙介は、本件事故のため、二四歳という若さで死亡するに至つたものであるうえ、本件事故は飲酒運転のうえのひき逃げ事故であつて、その無念さは測り知れないものがあるというべく、その慰謝料としては金一五〇〇万円を相当とする。

(2) 逸失利益 金五〇七八万七五九六円

謙介は、本件事故当時、福岡大学電気工学科三年生であつたもので、あと一年余りで同大学を卒業し、就職の予定であつたところ、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、旧大・新大卒、男子労働者年齢平均の賃金額は年収六一二万一二〇〇円であり、新ライプニツツ係数一六・五九四(一七・四二三二―〇・九五二)を乗じて、五割の生活費控除をして逸失利益を計算すると、金五〇七八万七五九六円となる。

(二) 謙介の損害賠償請求権の相続

謙介は前記のとおり、平成四年一月六日死亡し、両親である原告岩尾富志美(以下、単に「原告富志美」という)及び原告岩尾耕治(以下、単に「原告耕治」という)が、各二分の一宛の割合で、被告らに対する損害賠償請求権を相続取得した。

(三) 原告ら各固有の損害

(1) 葬儀費用 金一二〇万円

原告耕治は、謙介の葬儀を執り行つたが、その費用として金一二〇万円を請求する。

(2) 遺体搬送費 金二七万六〇〇〇円

原告耕治は、謙介は福岡市内で死亡したものの、葬儀は大分市内で執り行わざるを得なかつたため、霊柩車による遺体搬送費等のため金二七万六〇〇〇円を出捐した。

(3) 慰謝料 合計金五〇〇万円

原告富志美及び原告耕治は、本件事故により、一人息子の長男に先立たれることになつたものであり、その精神的損害は筆舌に記しがたいものがあり、これを慰謝するにはそれぞれ金二〇〇万円が相当である。

また、原告岩尾絵美(以下、単に「原告絵美」という)は、本件事故により、仲のよかつた唯一の兄弟を亡くしたものであり、その精神的苦痛を慰謝するには金一〇〇万円が相当である。

(四) 損害の填補 金三〇〇〇万円

原告富志美及び原告耕治は、平成四年二月二七日ころ、自賠責保険より、死亡保険金として、それぞれ金一五〇〇万円を受領した。

(五) 弁護士費用 合計金三一〇万円

原告らは、本件訴訟の遂行にあたり、これを弁護士に委任せざるをえなかつたもので、本件事故と相当因果関係ある損害として、原告富志美及び原告耕治は各金一五〇万円、原告絵美は金一〇万円を請求する。

5  よつて、原告らは被告らに対し、損害賠償請求権に基づき、原告富志美は金二一三九万三七九八円、原告耕治は金二二八六万九七九八円及び原告絵美は金一一〇万円並びに右各金員から前記各弁護士費用を控除した各金員に対する本件事故の翌日である平成四年一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告福田)

1 請求原因第1項の事実のうち、(一)ないし(三)の事実は認め、(四)の事実は否認する。

2 同第2項(一)の事実のうち、飲酒運転と本件事故との間の因果関係を否認し、その余は明らかに争わない。

3 同第3項の事実は明らかに争わない。

4 同第4項の事実は不知ないし争う。

(被告会社)

1 請求原因第1項の事実のうち、(一)ないし(三)の事実は認め、(四)の事実は知らない。

2 同第2項(二)の事実のうち、被告会社が加害車両を保有していた事実は認めるが、運行供用者責任は否認ないし争う。

3 同第3項の事実は明らかに争わない。

4 同第4項の事実は不知ないし争う。

三  被告らの主張

1  運行供用者責任の不存在(被告会社)

被告会社は、本件事故当時、以下の事情により、加害車両に対する運行支配を喪失し、かつ、運行利益も失つていた。

すなわち、被告福田は、会社一斉休業中、被告会社の社用車の取扱についての規則等に違反して、利用許可申請をしなかつたのみならず、全く無断で、社用車の鍵を保管しているキーボツクスから社用車である加害車両の鍵を持ち出し、社用車保管のための駐車場から乗り出し、自己のために運転していて本件事故を発生させたものであるから、被告会社が運行の用に供していたものではないから、被告会社は本件事故につき何ら責任を負わない。

2  過失相殺(被告ら共通)

謙介は、バイクを運転して進行中、自らの著しい過失により、加害車両の進行車線上の道路脇の電柱に衝突し、道路中央付近に転倒していたものであり、また、事故当時は深夜で、しかも雨が降つていて、道路の凹凸、周囲に電灯等がない状況からして前方の状態が極めて見えにくい状態であつたところ、謙介は、本件事故当時、黒つぽい服装をしていて、余計発見が困難であつたというべく、謙介により大きい過失があるのであつて、本件損害賠償額については、相応(五割以上)の過失相殺がなされるべきである。

四  被告らの主張に対する認否及び反論

1  被告会社の運行供用者でない旨の主張は争う。

2  過失相殺の主張は争う。

本件事故は、その態様から過失相殺をすべき事案でなく、仮にするとしても被告福田の過失の重大性に比べれば、謙介の過失は僅少(多くて一割)なものに止まるというべきである。

第三証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるからここに引用する。

理由

一1  請求原因第1項の事実のうち、(一)ないし(三)の事実は、当事者間にすべて争いがない。また、同第3項の事実は被告らにおいていずれも明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

2  そこで、本件事故の態様について検討するに、右争いのない事実に加えて、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証の一、二、第五(原本の存在とも)、第六(原本の存在とも)、第八号証(原本の存在とも)、第一〇号証の一ないし四、乙イ第一ないし七号証、第八号証の一ないし三、第一〇ないし一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第一五ないし三八号証、被告福田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故前後の状況等は、概ね、以下のとおりであつたことが認められ、同認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  平成四年一月六日午前一時三〇分ころ、福岡市城南区七隈七丁目一八番一五号先市道(通称清水姪浜線)路上において、謙介が原動機付自転車を運転して、七隈交差点方面から平隈交差点方面に向け進行中、七隈小学校前の交差点侵入後幅員がやや減少している右道路の道路端から一・三メートルの路側帯上に設置されている電柱に気づかず衝突し、四・七メートル先の中央線寄り路上に仰向けに倒れ、運転していた原動機付自転車も七・五メートル先の対向車線上に転倒した。

(二)  おりから、対向車線上を進行していた宮城正男は、謙介に駆け寄り、声を掛けたが、同人は、呻きながら、上体を動かそうとしていた。宮城正男は、ただちに謙介を道路外の安全な場所に移動させようとしたが、宮城正男の後続車が宮城正男の車を移動させるよう言つたことから、後続車に事故の状況を説明するためその運転手のところに行こうとしたところ、七隈交差点方面から平隈交差点方面に向け青色信号に従つて七隈小学校前の交差点に時速四、五十キロメートルで侵入してきた被告福田運転の加害車両がその左前部を謙介に衝突させ、同人をそのまま加害車両底部で轢過し、その結果、同人は、加害車両進行車線二一・八メートル先の左側路側帯に投げ出された。

被告運転の加害車両は、一度もブレーキすらかけることなく、そのまま平隈交差点方面に向け走り去つていつた。

そして、謙介は、本件事故により肺挫滅創、左大腿骨骨折、右下腿骨開放性骨折等全身打撲傷の傷害を負い、その後間もなく死亡した。

なお、謙介は、本件事故当時、黒つぽい服装をしていて、黒のフルフエイスのヘルメツトを着用していた。

(三)  被告福田は、本件事故当時、運転に支障があつたとまでは即断しがたいまでも、一時間半前まで飲酒(生ビール一杯、日本酒一合半、焼酎一杯程度)していたものであり、その血中アルコール濃度は、血液一ミリリツトルにつき〇・五七ないし〇・八ミリグラム、呼気アルコール濃度は、呼気一リツトルにつき〇・二九ないし〇・四ミリグラムと推定される程度の酔いの状態であつた。

また、被告福田は、免許条件である眼鏡は付けていなかつた(ただし、本件事故の約二週間後の運転免許証の更新時には、同条件は解除されているので運転自体にそれほどの支障があつたともいいがたい)。

そして、被告福田は、本件事故当時、車内暖房に少々上気し、若干の眠気もあり、また、折からの降雨に、視界が通常よりも不良となり、少しばかり運転しづらくなつていたところ、四、五十キロメートルの速度で、本件事故現場付近を通りかかつたものであるが、進路左三〇〇メートル位前方のコンビニエンスストアの電照ポール看板に気を奪われ、前照燈は下向きにしていたのであるから、前方注視をしてさえいれば、進路前方道路上に横臥していた謙介を二〇メートル余り手前で発見しえたものであるのに、前方注視を欠いたまま漫然と進行したことにより、本件事故を惹起させたものである。

しかしながら、被告福田は、衝突の衝撃こそ感じ、人だつたかも知れないとの危惧も閃かないではなかつたものの、何か大きい物体に乗り上げたのであろう、きつと物にぶつかつたのだという程度に感じ、自分で自分を納得させ、そのままブレーキも掛けることなく、自宅に帰つた。

その後、被告福田は、本件事故に対する刑事処罰としては、業務上過失致死で略式命令がなされ、罰金五〇万円に処せられたが、道路交通法違反(轢き逃げ、飲酒運転)では起訴等はなされなかつた。

(四)  なお、本件事故現場道路は、多少の凹凸はあるが法定速度四〇キロメートルの前後方は見通しのよい加害車両進行方向にゆるやかに下り勾配の片側一車線のアスファルト舗装の道路であり、幅員は約五・三メートルで、両側に一・三ないし一・五メートルの歩道がそれぞれあるが、本件事故当時は、降雨のためやや見通しが悪くなつており、本件事故現場付近には街灯もなく、見通しの悪さを助長していた。

二  請求原因第2項(一)の事実のうち、被告福田において、飲酒運転と本件事故との間の因果関係を除くその余の事実は、これを明らかに争わないから自白したものとみなす。

したがつて、被告福田は本件事故につき民法七〇九条の不法行為責任に基づき、後記損害を賠償すべき責任がある。

三  請求原因同第2項(二)の事実のうち、被告会社が加害車両を保有していた事実は、原告と被告会社との間に争いがない。

しかしながら、被告会社は、加害車両の運行供用者責任がない旨主張し抗争するので、この点を判断するに、成立に争いのない乙イ第一九号証、第二〇号証、第二三号証、第二五号証及び被告福田本人尋問の結果によれば、被告福田は、本件事故前、約三年間にわたり、加害車両を運転管理しており、通勤や営業活動等の仕事上使用するほか私用等にも運転使用していること、社用車については、規則上、原則的には通勤を含めた会社の社用に限られてはいるものの仕事の都合で自宅に持ち帰ることも許可されており、本件事故当時も夜間営業の店舗を見て回るという仕事上の必要があつたことから、上司の許可は受けることなく持ち帰つていたものであること、加害車両は被告会社が担当車の指定をして被告福田個人に一台貸与しているものであり、エンジンキーも個人保管となつているものであるから他の社員が運転することはほぼないこと、被告福田は、個人で自宅近くの有料駐車場を借りて加害車両を保管していること、本件事故当時も、私用目的での運転であつたが、途中からは、雇客店舗の商品売れ行き状況を見て回ろうとしており、その矢先の事故であつたこと、などの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

しかして、以上によれば、被告会社の規則上からは無断であり、違反であつて、本件事故時の運行そのものは被告会社の業務そのもののためではなかつたにせよ、なお、その運行は被告会社の支配下にあつたものであることは明らかであるというべく、被告会社は、本件事故につき運行供用者として自動車損害賠償保障法三条の責任を負う。

被告会社の運行供用者責任が不存在である旨の主張は失当というほかない。

四  そこで、被告らの賠償すべき本件事故による損害の額について判断する。

1  謙介の損害

(一)  慰謝料 金一二〇〇万円

成立に争いのない甲第四号証、原告富志美本人尋問の結果により真正に成立したものと認めることができる甲第九号証及び原告富志美本人尋問の結果によれば、謙介は、昭和四二年七月一六日生まれの、本件事故当時二四歳の前途有為の若者であつたところ、前認定の態様の本件事故により、死亡させられるに至つたものであり、その痛恨の思いは甚大というべく、本件事故の態様、被害者の年齢等、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮するならば、これに対する慰謝料は一二〇〇万円をもつて相当とする。

(二)  逸失利益 金五〇七八万六三七二円

前掲甲第四、第九号証、乙イ第二二号証及び原告富志美本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、謙介は、本件事故当時、福岡大学電気工学科三年生(二四歳)であつたもので、あと一年余りで同大学を卒業し、就職の予定であつたものであることが認められるので、本件事故により死亡しなければ、少なくとも大学卒業後の二五歳から六七歳までの四二年間就労でき、収入を挙げえたであろうことが推認できる。

そして、平成二年賃金センサス第一巻第一表によると、同年度の男子労働者の産業計、企業規模計の「旧大・新大卒」の男子労働者年齢平均の賃金額は年収六一二万一二〇〇円であり、謙介の年間の生活費は右収入の五割を要するものと考えるのが相当であるから、以上を基礎に謙介の逸失利益の本件事故当時における現価を算出するに、ライプニツツ係数一六・五九三六を乗じて計算すると金五〇七八万六三七二円(一円未満切捨て)となる。

計算式

6,121,200×0.5×(17.5459-0.9523)

(三)  なお、前掲甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告富志美及び原告耕治の両名は、謙介の両親として、謙介の被告らに対する損害賠償請求権を法定相続分に従い二分の一宛相続取得したことが認められる。

2  原告ら各固有の損害

(一)  葬儀費用 金一二〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第一一号証及び弁論の全趣旨によると、原告耕治は、謙介の葬儀を執り行い、その費用として金一二四万円余を支弁したことが認められるところ、謙介の年齢その他諸般の事情に照らし、葬儀費用として、請求にかかる金一二〇万円を原告耕治の損害として認めるのが相当である。

(二)  遺体搬送費 金二七万六〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第一号証及び原告富志美本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、謙介が死亡したのは福岡市内であるものの、葬儀は大分市内で執り行わざるを得なかつたため、おそらく謙介の搬入先病院側の手配により、謙介の遺体を霊柩車で大分まで搬送し、原告耕治は、柩、霊柩車代他として福岡市の株式会社美花園に金二七万六〇〇〇円を出捐したことが認められ、同額を原告耕治の損害として認めるのが相当である。

(三)  慰謝料 合計金三〇〇万円

前掲甲第四、第九号証、乙イ第二二号証及び原告富志美本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告富志美及び原告耕治は、本件事故により、一人息子の長男に先立たれることになつたものであり、その将来を期待していただけにその精神的損害は筆舌に記しがたいものがあるというべく、このような精神的苦痛に対する慰謝料は、謙介の年齢、原告富志美及び原告耕治との身分関係など本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、原告富志美及び原告耕治各自に対しそれぞれ金一五〇万円をもつて相当と認める。

なお、原告絵美本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故により、仲のよかつた唯一の兄を亡くしたものであること、本件事故現場に熊本から三度赴いていること、本件事故の訃報を最初に受け、衝撃を受けたものであることが認められ、その悲しみは理解しうるものの、同人が、父母、配偶者及び子に準ずるか、或はその他の特別な事情も本件証拠上認められないので、原告絵美の慰謝料支払を求める本訴請求は、この点において失当であるから、排斥するほかない。

3  過失相殺

前記認定によると、本件事故発生については、自らの過失により電柱に衝突、受傷し、加害車両進路前方車線上の道路中央付近に仰臥していたという謙介の側にも重大な過失が認められ、また、事故当時は深夜で、しかも雨が降つていて、事故現場付近周囲に電灯等がない状況からして前方の状態が見えにくい状態であつたところ、謙介は、本件事故当時、黒つぽい服装をしていて、余計発見困難であつたことなどの事情もあり、かかる被害者側の事情等と、本件事故当時、被告福田が、飲酒していた状態で加害車両を運転していたこと、運転状況が必ずしも良くないにもかかわらず、前方注視を全くといつていいほどしていなかつたこと、スピードも法定速度を超えるものであつたこと、轢き逃げとまでは即断できないものの、本件事故による相当の衝撃があり、人を轢いたのではないかとの閃きもあつたにもかかわらず、物を轢いた程度に軽信ないし盲信させ、ブレーキを掛けることもなく、そのまま通り過ぎてしまつたという非難されるべき事情等、両者を総合勘案し、謙介の過失割合は五割と認める。

しかして、謙介の過失は、原告富志美及び原告耕治の損害額を算定するにつき斟酌するのが相当であるから、右過失割合に従つて過失相殺すると、原告富志美の損害額は、金一六四四万六五九三円、原告耕治の損害額は金一七一八万四五九三円となる。

4  損害の填補 合計金三〇〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告富志美及び原告耕治は、平成四年二月二七日ころ、自賠責保険から死亡保険金としてそれぞれ金一五〇〇万円を受領したことが認められる。

そうすると、原告富志美及び原告耕治の各損害額は、前記3の各損害額から右自賠責保険から死亡保険金としてそれぞれが受領した金一五〇〇万円を各控除した額となる。

よつて、原告富志美の損害額は、金一四四万六五九三円となり、原告耕治の損害額は、金二一八万四五九三円となる。

5  弁護士費用 合計金五〇万円

原告らが、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは、記録上明らかであるところ、本件請求額、認容額、事案の内容、訴訟の難易等の状況によれば、原告富志美の分は金二〇万円、原告耕治の分は金三〇万円を、本件事故と相当因果関係ある損害として被告らが賠償すべきものと認められる。

五  結論

以上の次第で、被告らは各自、原告富志美に対し金一六四万六五九三円及びうち金一四四万六五九三円に対する本件事故発生の翌日である平成四年一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告耕治に対し金二四八万四五九三円及びうち金二一八万四五九三円に対する本件事故発生の翌日である前同日から支払ずみまで同じく年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、右原告両名の本訴各請求はいずれも右の限度で正当であるからこれを認容し、右原告両名のその余の請求及び原告絵美の被告らに対する本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上亮二)

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